事業紹介

臨床研究に必要な
理論・知識・スキルを学ぶ

臨床研究デザイン塾®

10年後を見据えて医療に変化をもたらす次世代人材の育成事業

塾
  • 10年後を見据えて医療に変化をもたらす、次世代人材の育成事業です。
  • 臨床研究デザイン塾は、診療実践に従事している臨床家がみずから診療上の疑問(クリニカル・クエスチョン)を検証可能な仮説(リサーチ・クエスチョン)に変換・構造化し、解析するために必要な一連の理論・知識・スキルを学ぶためのプログラムです。
  • 最短でも1年はかかる大学院等のカリキュラムに参加できない多忙な臨床家に、これまでにない学習の機会を提供しています。
  • 対象に応じてカリキュラムを組み立て、また修了後も継続的な学習の機会やネットワークを提供しているのが特徴です。
  • 将来、各領域のニーズに応じて幅広い展開が期待されるとともに、医療の現場に対して、その成果が還元されることが期待されます。

2017年 第14回 臨床研究デザイン塾

2004年に開講した「腎臓・透析医のための臨床研究デザイン塾」は、全国の若手臨床医を対象にした集中的な合宿形式で、17年間で180名以上の塾生が参加し、1000編以上の英文原著論文が発信されています。この臨床研究デザイン塾を企画された福原俊一先生(京都大学 特任教授/ジョンズホプキンス大学 客員教授)に伺いました。

福原俊一先生

この塾は、これまで見たこともない型破りな企画であったこともあり、2004年開講当時、周りからは変わり者による変則的な活動と見られていたようです。その15年後に、日本腎臓財団から学術賞としてその価値を認めていただくとは夢にも思っておらず、まさに望外の思いでした。受賞式で数人の理事から、「学会の演題発表や質問で優れているなと感じたものは大概が塾出身者であり、塾が学界全体の研究レベルを変えた」とまで言われたことにも驚きました。

思えば、この塾は、当初より単なる知識やテクニックを教える目的で開講しませんでした。「開塾式」の塾長挨拶で、開口一番「君たちは何でこの塾に来たの?」という根源的な問いを投げかけました。塾の目指す理念や目標を塾生と共有しました。当初から目標の中に、「学界全体における臨床研究の認知と質を変える」が入っていました。先述の理事の発言から、まさにその目標が達成されたことを実感でき、感慨深いものがありました。

2022年、京セラの稲盛和夫氏が亡くなられました。これを追悼してNHKが、「100年インタビュー」という番組を再放送していました。その中で、稲盛氏は、以下のような方程式をお示しになりました。

人生の結果 =
「能力」 × 「熱意」 × 「考え方」

この方程式で、特に「考え方」という項目が興味を引きました。ベクトルと言えるかもしれません。確かに、いくら偏差値が高くても、その考え方がネガティブな方向だと、マイナスの結果が大きくなるだけだと納得できるものでした。稲盛氏が80歳を超えてから奇跡的に再生した日本航空をみても、当時の社員の多くが高い能力をもったエリート集団だったにも関わらず、この方程式の「考え方」が必ずしも良い方向を向いていなかったことが、倒産につながったのかもしれません。

2015年 第12回 臨床研究デザイン塾のグループワークの様子

2016年 第13回 臨床研究デザイン塾

塾を開講した当時、この方程式のことは知りませんでしたが、「考え方」を違う表現でこの塾生と共有したことを思いだしました。私はそれを「コア・バリュー(中核的価値基準)」という言葉で表現しました。そのコア・バリューには、「研究の科学性や倫理性で妥協しない」はもちろんのこと、「臨床現場に切実な問題を解決する研究を目指す」が入っていました。現在、塾生たちは見事にそのコア・バリューを体現してくれています。
実は塾には、hidden agenda(隠れた目標)もありました。それは「塾から教授を10人輩出して、学界の文化を変える」というものでした。果たして、2022年に入り、新たに3名もの教授が誕生し、開講以来この塾から10人の教授が誕生し目標を達成することができました。
今回は、そのうちの2人を紹介します。
一人目は、5期性の星野純一氏です。星野氏は、全国トップクラスの総合病院である虎ノ門病院で腎臓内科を専攻された方です。塾に参加後、米国UCLAに留学、大きな研究成果とともに帰国されました。帰国後も研鑽を積まれ、東京女子医科大学の腎臓内科の主任教授に就任されました。編集長が代表理事を務めている日本臨床疫学会の上席専門家としても活躍されています。今後は、次世代の臨床疫学研究者の育成に貢献していただくことを期待しております。
もう一人は、10期生の桑原篤憲氏です。桑原氏は腎臓内科の専門医でしたが、途中から学長の勧めで、2022年6月に総合診療科の主任教授に就任されました。今後の日本の医療を考える時、多くの慢性疾患を抱えること(マルチモビディティー)が当たり前の高齢者が増加する中にあって、臓器別医療とともに、総合診療も重要となります。特に地域医療においては、優れた技術と高い志を持った総合診療医が求められています。私は、地域医療支援にアカデミズムを加えて福島県、和歌山県、高知県に総合診療アカデミーを作りました。桑原氏も、今年からこの輪の中に入ってくださり、早速、研究カンファレンスにご参加いただいております。
15年以上前に開講した「腎臓・透析医のための臨床研究デザイン塾」から、未来の医療を担う教授が生まれたことは、まさに塾の誉だと心より嬉しく感じています。両氏のこれからの活躍に大いに期待するところです。

星野純一氏からの
メッセージ

星野 純一氏

東京女子医科大学 内科学講座 腎臓内科学分野 教授・基幹分野長の星野純一です。
このたび、2022年4月1日付けで現職を拝命いたしました。私に“臨床研究の道標”を示してくださった福原塾長を始め、関係者の皆様に篤く御礼を申し上げます。
私は、大学卒業後、直ちに虎の門病院で臨床研修を始めました。その中で様々なエビデンスギャップを痛感し、自らの手で臨床研究を行う道を志しました。臨床研究デザイン塾での塾長や豊富な講師陣の熱い授業は大変刺激的でした。さらには、同じ志を持つ仲間と知り合えたことは私の財産になりました。
塾卒業後、更なる研鑽を求めて米国UCLA公衆衛生大学院に進学し、帰国後は虎の門病院にて医局データベース基盤を構築しました。その結果、自分や後輩医師が学会賞を受賞(腎臓学会で3回、透析学会で2回)する幸運にも恵まれました。
現在の夢は、当科の伝統である臨床と基礎研究の質を更に高めるとともに、5,000床を超える関連病院群のデータベースを構築し、多くの若手研究者が活躍できる基盤を整えることです。ご興味がある方は是非お声がけください。共に仕事ができる日を楽しみにしております。

桑原篤憲氏からの
メッセージ

桑原 篤憲氏

このたび、2022年6月1日に母校である川崎医科大学 総合臨床医学の主任教授を拝命いたしましたので、ご挨拶申し上げます。私は2013年に「第10回腎臓・透析医のための臨床研究デザイン塾」に参加したのがきっかけで、臨床研究やエビデンスに基づいた医療(EBM:Evidence Based Medicine)、および診療の質に興味を持ちました。
2015年には福原俊一先生たちが作られた「臨床研究オンラインプログラムgMAP(ジー・マップ)」を本学に採用していただき、正規の大学院教育プログラムの実施者として臨床研究のリテラシー教育を行ってきました。当教室は「日本の総合診療のトキワ荘」(福原先生)と言われ、日本のプライマリ・ケア領域において歴史のある教室です。その名に恥じぬよう教室をさらに発展させたいと思っています。
また、同じ塾出身者である佐田憲映先生が主催されている高知大学臨床疫学講座や、福原先生が副学長をされている福島県立医科大学の寄付講座である白河総合診療アカデミー等とも連携し、真のEBMの概念をもつ総合診療医を輩出したいと考えております。浅学菲才の身でありますが、日本の臨床研究やプライマリ・ケア領域の発展のため努力する所存です。今後とも何卒、ご指導・ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。

今でも続いている塾があります。それが「會津藩校日新館 臨床研究デザイン塾」、通称「會津塾」です。この塾は、福原俊一先生が、福島の大震災後の翌年、福島県立医科大学の副学長を兼務してから開始したプロジェクトの1つです。以来10年にわたり毎年開催され、これまで400名以上の臨床医が参加されています。

この塾構想の提案をお聞きになられた菊地臣一学長は即断即決されました。菊池先生なしには會津塾は実現しませんでした。2022年に亡くなられた菊地先生の偉大さを偲ぶ追悼文は以下をご覧ください。
菊地 臣一先生を追悼して
http://www.shirakawa-ac.jp/news/2022/02/08/1321/

2015年 第3回 會津藩校日新館 臨床研究デザイン塾

2013年開講当時、福島県は医療崩壊寸前の状況にあり、県外の医師に福島県のことを何とか知ってもらおうと思い発案しました。福島の温泉旅館で2泊3日、参加者が寝起きを共にして学ぶ合宿形式のイベント。参加者を5~6名のグループに分け、グループでリサーチ・クエスチョンを考案、揉み合い、最終日に研究計画を発表、最優秀賞を表彰、という塾の原点ともいえるやり方でした。

震災直後にもかかわらず全国から50名以上の臨床医が福島県に集まってくれました。夜は浴衣を着て夕食会をして懇親しますが、その後も各グループは深夜まで作業します。ほとんどが30代の家族も持っている臨床医ですが、学生のような気持ちになって議論を交わす様は壮観でした。出身地、専門、所属を超えたインターアクションが生まれました。最終発表会では、皆、緊張し神妙な面持ちでのぞみ、最優秀賞を勝ち取ったグループの喜びは予想以上のものでした。最後の懇親会では、緊張も解け、多くのネットワークが生まれるのが見えます。

興味深いことに毎年参加者の中から必ず1人か2人、本格的に臨床研究を学んでみようとする方が出てきます。その方々の中には、福島県立医科大学の臨床研究フェローシップ、白河総合診療アカデミー、京都大学の大学院に来た方もいらっしゃいます。現在、會津塾参加者の中から7名の方が、アカデミックなポジションを得て活躍されています。塾生のおひとり、土方保和先生も、北九州の病院から京都大学の大学院に入られ博士号を取得し、2022年4月から我々の仲間として研究することになりました。研究論文も目白押しです。彼の物語は、Primaria ONLINE* 2021年12月号「臨床研究の道標」や、拙著「臨床研究21の勘違い」(医学書院)をご覧ください。

*Primaria ONLINEは、医療者であればどなたでも会員(無料)のご登録でご覧いただけます。
https://primaria.pro/

會津塾 参加者の物語

救急科専門医 山田淑恵先生の物語
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学分野 助教
2016年に「會津塾」に参加した当時は、エビデンスを重視する福井大学の救急部で勤務しておりましたが、私自身は臨床研究の結果を目の前の患者さんに結びつけることができず、正直論文が苦手でした。「塾」で初めて臨床研究の中身に触れ、その奥深さに心動かされました。好奇心がうずき、臨床で感じた「医療のはざまで不幸な目に遭う患者さんを減らしたい」という願いを、臨床研究を通じて叶えたいと希望が芽生えました。そのまま京都大学大学院の医療疫学分野に入学し、現在も研究を続けています。
脳外科専門医・脊椎外科指導医 土方保和先生の物語
北須磨病院 脊椎・腰痛センター 主任医長/京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学分野 非常勤講師
脊椎外科では痛みやしびれといった「見えない症状」を手術という「強介入」で治療します。質の高いエビデンスを創出することは難しく、実はわからないこと(リサーチ・クエスチョン:RQ)だらけでした。民間病院で臨床のみに従事していた頃は、RQの山に対する答えを探し自身の臨床経験を振り返る日々でした。これだ! と思ったことは発信するために学会投稿していましたが、結果は落選ばかり。ところが臨床仲間の誘いで「會津塾」に参加して状況が変わりました。見様見真似で行った研究が初めて口演採択されるに止まらず、研究助成や国際学会のシンポジウムにまで採択されるという即時効果があり。これは勉強したらRQの山を解決していけそうだ! と京都大学医療疫学教室の門をたたき、現在もご指導のもと研究に取り組む毎日です。

塾の理念

  • わが国の臨床家による、質が高く、臨床的・社会的意義の高い臨床疫学研究を世界に発信することを推進するために臨床研究をキャリアとする若手研究者を育成すること
  • 臨床研究者による新しいリサーチ・コミュニティを創出すること

プログラム

  • 臨床研究デザイン塾では、「漠然とした疑問」から「研究の基本設計図」までの7つのステップにそって、講義や小グループ実習を行います。
  • 独自のリサーチ・クエスチョンに基づくプロトコールの作成をグループで行い、完成したプロトコールの発表を行います。
「漠然とした疑問」から「研究の基本設計図」へ7つのステップ

成果

  • 塾修了者の中には、大学院に入学する方、臨床研究のために海外留学する方、国際学会へ発表する方(優秀賞の受賞)、国際誌への英文原著論文を出版する方、教育研究機関の教授になる方などが出現しました。塾生同士の絆も生まれ、塾生による研究プロジェクトが企画・立案・プロトコール化されるまでに成長しました。
  • 塾生による原著論文リスト(2017年時点)はこちら
  • 塾生の教授就任者(2022年時点)*敬称略
    <1期生>
    • 柴垣 有吾(聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 主任教授)
    • 濱野 高行(名古屋市立大学医学研究科 腎臓内科学分野 教授)
    • 小松 弘幸(宮崎大学医学部 内科学講座 循環器・腎臓内科学分野 臨床医学教育部門 教授)
    • 長谷川 毅(昭和大学 統括研究推進センター研究推進部門 教授)
    <3期生>
    • 濵田 康弘(徳島大学医学部 医科栄養学科 臨床実践栄養学講座 疾患治療栄養学分野 教授)
    <4期生>
    • 佐田 憲映(高知大学医学部 臨床疫学講座 特任教授)
    • 土井 俊樹(広島大学病院 腎臓病地域医療学 寄附講座 教授)
    <6期生>
    • 栗田 宜明(福島県立医科大学大学院医学研究科 特任教授)
    • 星野 純一(東京女子医科大学 内科学講座 腎臓内科学分野 教授)
    • 遠山 直志(金沢大学附属病院 先端医療開発センター 生物統計部門 特任教授)
    <10期生>
    • 桑原 篤憲(川崎医科大学 総合臨床医学 主任教授)